読書感想「機動戦士ガンダム」

ファーストガンダム世代のガンダムファンを自称する私としては「今更」と言われてしまいそうですが、数年前に買って途中までしか読んでいなかった小説版をやっと読み終わりました。

この作品はファーストガンダム放映時に既に富野由悠季氏(ファーストガンダムのオープニングでは富野喜幸と表記していたので本来そちらで表記すべきか。)によって書かれた小説版ガンダム。

富野氏は近年、本作品について「「本来はこうしたかった」というエクスキューズや「実はこういう意図でした」という種明かしではない。」と述べているそうですが、一方で「玩具メーカーのスポンサーの要求のない小説では独自の世界を描いて見せるという意気込みがあった。」とも言っているとのこと。

ガンダムについては企画段階から制作側の「全身白いロボットにしたい」「パワードスーツサイズにしたい」といった希望をおもちゃメーカーのスポンサー(バンダイではなくその後倒産してしまったクローバー)に却下され、妥協案として全高18m、胴体部分をトリコロールカラーに塗られたロボットとなり、おもちゃの売れ行きが良くないと見るとおもちゃじみたGアーマー、Gブルといったガンダムの追加兵器を登場させられ、挙句の果てに当初の予定から10話ほど短いタイミングで打ち切りをさせられるという経緯が有ったので、「本当はこうしたかった」が本音では無いかと思う。

まぁ、富野氏の言うことを信用するなら、「実験結果の再検証のような役割がある思考実験」とも言っていることから、富野氏の意思というよりも物語世界の道理から「本当ならこうなる」というものなのかもしれない。

本作品は当初の設定からしても、アムロやハヤト、カイ、ミライが最初から職業軍人だったり、地球に降りなかったり、そのためガンタンクは出てこなかったりといった違いは有るにしても、サイド7でガンダム、ガンキャノンを受領。
ガルマに行く手を阻まれこれを撃破し、この事が原因でシャアはドズルの下からキシリアの下へ行くなど、前半こそTVに近いストーリー展開となる。
しかし、第1巻終盤にテキサスコロニーでララァと出会った辺りから物語は大きく変わってくる。
TV版では、終盤にあたる宇宙に戻った辺りからニュータイプという言葉が出始めるが、小説版では3巻中の第1巻から早くもニュータイプについて語られ始める。(と思ったらアニメ版でもマチルダさんが既にニュータイプについて言及してましたね。2022/9/15追記)
第2巻では連邦、ジオン両勢力でニュータイプについて登場人物が考え、語られることが多くなる。

そして両陣営でニュータイプとされる人々は、宇宙に住む人類としてのニュータイプというもの、戦中はエースパイロットと同義に扱われているニュータイプ達の戦後の待遇について考え始める。

そしてシャアは敵味方のニュータイプ達の為に大きく動き出す。
それはある登場人物の死によって結実する。

ニュータイプという言葉はTV版放映中に考え出されたものらしく、終盤になってやっとそうした概念が作品に取り入れられていったが、それを突き詰めたのが小説版と感じた。

ニュータイプはもちろん創作上の概念だが、そうした能力が現実の人類に備わったらどうなるだろう。
世界は良くなるのか、悪くなるのか。
そんなことを最近考えてしまうのでその一つの帰結を見せてもらった気持ちになった。

太古の時代、歩いていける範囲が世界だった頃から、海をわたり、空を飛び、一般の人の考える「世界」は大きく広がった。
それによって様々な意識は変わってきたことだろう。
ガンダムの世界では、木星で資源採掘のために働く人達がいて、月の軌道あたりまで何十億という人たちが暮らしている。
そうなれば、今の人類よりも更に意識は拡大していく。
世界とみなす範囲は大きく広がる。
それがニュータイプではないのかとも書かれている。

地上から数100kmのギリギリ宇宙というところまで行っても人の意識は大きく変わると言われている。
それが半径40万kmほどを世界と捉えるようになれば、、、、


話を小説版ガンダムに戻すと、最後にナレーションベースで語られる戦後の登場人物たちの行方もTV版とは異なっているが、「本当ならこうなる」と考えれば当然なのかもしれない。

当初書かれたのが40年前なので若干の古臭さを感じるし、富野氏の理屈っぽい文章につきあわされることになるが
もう一つのガンダム。
ニュータイプというものを突き詰めたガンダム。
そんなものを読んでみたければ是非。

機動戦士ガンダム I (角川スニーカー文庫) - 富野 由悠季, 美樹本 晴彦
機動戦士ガンダム I (角川スニーカー文庫) - 富野 由悠季, 美樹本 晴彦

機動戦士ガンダム II (角川スニーカー文庫) - 富野 由悠季, 美樹本 晴彦
機動戦士ガンダム II (角川スニーカー文庫) - 富野 由悠季, 美樹本 晴彦

機動戦士ガンダム III (角川スニーカー文庫) - 富野 由悠季, 美樹本 晴彦
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